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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)5552号 判決 1967年2月09日

原告 島本得一

被告 小林敏郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が大阪地方裁判所昭和四〇年(ヨ)第二五六一号不動産仮処分決定に基き別紙目録<省略>記載の建物に対し昭和四〇年七月二九日なした仮処分執行は取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め請求原因として。

原告所有の大阪市東区横堀三丁目一七番地の三、宅地二三坪三勺(本件土地という)および同地上にある訴外燈台正次郎、燈台徳顕、燈台陽子三名の共有にかかる別紙目録記載の建物(本件建物という)に関し、原告は右燈台正次郎外二名に対し同人等において本件建物を収去して本件土地を明渡すべきこと等を命じた昭和四〇年二月二三日確定の判決を有し、右確定判決の執行力ある正本に基き本件土地の右明渡の強制執行として大阪地方裁判所に民事訴訟法第七三三条第一、二項の申立(同裁判所昭和四〇年(執モ)第二五六、第二五七号)てたが執行債務者等が同年八月末日までに自らの手で任意本件建物の収去と本件土地の明渡をなすべき旨申出たので執行を猶予していたところ右期日を徒過したばかりでなくその間において右執行債務者等は被告と通謀して原告の前記強制執行を妨害することを目的とし本件建物につき昭和四〇年八月三日大阪法務局受付第二二〇六七号により昭和三八年四月一日売買を原因とする被告名義の所有権移転仮登記を経由し、被告は燈台正次郎外二名を債務者とする大阪地方裁判所昭和四〇年(ヨ)第二五六一号不動産仮処分決定を得て昭和四〇年七月二九日本件建物につき右仮処分の執行したものである。右仮処分の執行は原告の前記確定判決に基く強制執行の障碍をなし原告の本件土地所有権の行使を妨害するものであるから原件は本件土地所有権に基き右仮処分執行の目的物に対し民事訴訟法第五四九条所定の「目的物の譲渡もしくは引渡を妨げる権利を主張」し得るものとし右仮処分の執行の取消を求めるため本訴に及ぶ。

と陳述した。

立証<省略>

被告は主文と同旨の判決を求め答弁として、

被告が本件建物につき原告主張の仮登記を経たこと、右建物につき原告主張の仮処分決定を得てその執行をしたことは認めるがその余の原告主張事実はすべて否認する。

甲号各証はすべてその成立を認める。

と述べた。

理由

各成立に争のない甲第二号証の一ないし四、第三号証、第四号証の一、二によれば、原告が訴外燈台正次郎、燈台徳顕及び燈台陽子三名に対して、同人等において本件建物を収去してその敷地たる本件土地を原告に明渡すべきことを命ずる確定判決(大阪高等裁判所が昭和三六年(ネ)第六七六号事件につき昭和三九年四月二七月言渡し、これに対し右三名より提起した上告につき最高裁判所がなした上告棄却判決によつて昭和四〇年二月二三日確定するに至つた原告勝訴の判決)を有し、右土地明渡の強制執行として右判決の執行力ある正本に基き原告より大阪地方裁判所に対して民事訴訟法第七三三条第一項及び第二項の申立をなし(同裁判所昭和四〇年(執モ)第二五六号、同第二五七号事件)、同裁判所が右申立に基き昭和四〇年八月一〇日、債権者(本訴原告、以下同じ)は本件建物を債務者等(前記燈台正次郎外二名、以下同じ)の費用をもつて第三者をして収去させることができる旨のいわゆる授権決定ならびに債務者等は予め債権者に対し金一五万八、一二〇円の費用を支払うべきことを命ずるいわゆる代替執行費用支払決定をなし、右決定正本が当時右債務者等に送達せられたことが認められ、その後被告が右債務者等との本件建物売買に基く引渡請求権の執行保全のため大阪地方裁判所の仮処分命令を得て本件建物につき右仮処分の執行をなしたことは当事者間に争がないところである。しかしながら原告のために発せられた前記代替執行の決定は執行債務者等が任意履行することを肯じない「本件地上よりの本件建物の収去」という作為義務を、その作為の性質が代替性を有することに鑑み執行債務者等各本人の意思、その任意の行為に依存せずして事実上に実現することを得せしむべき執行法上の権限を債権者たる原告に付与する裁判にほかならず、右裁判によつても、原告が本件建物の交換価値及び使用価値その他財産的利益を直接自己に帰属せしめこれを収得することを法律上正当ならしめるべき所有権、占有権その他の実体上の権利の如きはもとより、物に対する単なる事実的支配さえ何等取得するわけではないことは明らかであつて、前記の如く既に代替執行決定を得た原告の地位をもつて本件建物に対する被告の仮処分執行に関し民事訴訟法第五四九条にいわゆる執行の目的物につき引渡を妨げる権利を有するものに該当するとは到底解することを得ない。更に被告のなした仮処分執行の目的物たる本件係争家屋が同時に原告の前記強制執行手続における執行行為の客体ともなつている関係の故に、原告のための右強制執行手続の追行が事実上何等か障碍せられることがあるとしても、これを理由として右障碍の除去につき原告の有すべき右強制執行手続追行の可能化という利益の存在をもつて民事訴訟法第五四九条にいう「引渡を妨ぐる権利」に準ずべきものとなし、よつてかかる原告につき同法条による仮処分執行の排除を求め得べき手続法上の地位を類推許容すべしとするわけにもゆかないと解せられる。蓋し原告の有する前記確定判決と被告の得た仮処分決定とはいずれも独立して各執行の基本たる債務名義たり得べく、これに基く強制執行と保全執行の各手続の間に手続法上の効力において上下優劣の差異はなく、右に基く原告の前記代替執行ならびに被告の仮処分執行はともに各独立の執行手続として存在し、その間に一方が他に優先追行せられるべきものとする関係はないものと解せられ、したがつて同一特定不動産に関する具体的執行手続の併存牴触は、そのいずれの手続に対しても相互に平等の意味において事実上のみの障碍をなすことがあるに留まるものというべきであつて、このような場合につき一方の手続の立場に立つて右障碍を除去しその手続の追行実現のために現に競合併存している他の手続を排除することを許す如きことは、当該一個の手続につき、これと牴触する限りにおいて他の手続に優越する制度的な効力が付与容認せられている場合にのみ始めて可能と解せられるところ、一般的に強制執行と仮処分執行の各手続のいずれか一方につきかかる制度的優越を認めたものと解すべき何等の根拠も存しないからである。かくて執行手続双互の間に事実上の矛盾牴触を生じた場合当該手続双互の関係としては解決を得る途は存しないものと解せられるのである。

そしてこのように或る具体的強制執行手続につきその内容たる執行処分の客体とせられるべき特定不動産に対し、同時に当事者を異にする仮処分執行手続が開始存続せられている場合に、――当該仮処分権利者との間において強制執行の執行債権者の側から主張し得べくかつ右主張に基き展開し得べき法律的関係は唯、当該強制執行の基本たる債務名義の効力(既判力、執行力)が仮処分権利者にも妥当する旨、したがつてこれに基く当該強制執行の執行債務者として当然その手続の追行に服すべきことを求める主張をなすか(この場合はあくまで当該強制執行手続についてのみの、その追行の能否の問題であつて、右執行手続をもつてこれとは別個独立に開始進行せられている仮処分執行手続に対する直接の障碍事由をなすものと解すべきでないこと叙上説明のとおりである。もつとも被告よりする仮処分執行に関する民事訴訟法第五四九条の訴としてその当否をのみ判決すべき本件については以上の点については特に検討判断する本来の必要はない。)、然らざれば強制執行債権者において当該具体的強制執行の手続主体たる法律上の地位を離れこれとは無関係に、現に仮処分の目的物とせられている当該特定物につき仮処分権利者の主張している被保全権利の効力の強制執行債権者自身に対する妥当を否認し、もしくはこれを制限し得べき実体上の権利または法律的地位を有することを理由として当該仮処分執行手続につき民事訴訟法所定の各種の異議を主張するか、のいずれかを措いては他に如何なる関係も生じ得ざるべく、したがつて右債務名義の効力が或は妥当し或は妥当しないということ、または当該特定物に関する右の如き実体上の権利・法律的地位の存否ということを標準とし、その観点に立つて相互間の関係を決するほかないものと解せられる。そこで本件において一方原告の有する前記確定判決につきみれば、その既判力執行力が被告にまで拡張妥当するものと認むべき民事訴訟法第二〇一条、第四九七条ノ二所定の要件の存在はこれを肯認すべき何等の証拠もないし(但しこの点が本訴における審判の目的でないことは前記説明のとおりである。)、他方本件土地に関する原告の前記確定判決を経た権利もしくは具体的強制執行債権者たるの地位をもつて、本件建物に対する仮処分執行に関し執行目的物につき同法第五四九条の要件に適合する権利に該当するものと解し得られないこと叙上説明のとおりであるし、他に本件建物につき原告が被告に対し適法に主張し得べき実質上の権利法律関係を有することについては何等の主張立証が存しないところである。

してみれば本訴請求は他に判断をなすまでもなく理由のないことが明らかであるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 日野達蔵)

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